~プリティー・ウーマン~
1週間ほど前、どうしようもなく気分が晴れない日が続いた時の話だ。
普段『自分の機嫌は自分でとること』を自らに言い聞かせながら慎ましやかに生きているが、なかなか気分が晴れる気配がなく映画でも見て気を紛らわせようと近所のレンタルショップへ行くことにした。
あいにく会員カードを持っておらず新しく作ったのだが、職業欄でその他にチェックを入れていたところすかさず
店員「どういったご職業ですか」
私「無職です」
といったやり取りをするはめになった。
店員は「あっ・・・なるほど」などと呟きながら画面を入力していたが、果たしてこのやりとりが私に提供されるサービスにどんな影響があったのか、それは定かでない。
無職で問題ないのだったら他の職業でも問題なさそうだが知らなければならない何かがあったのだろうか?だったらもう少し無職を疑ってみても良いのではないだろうか?「え?本当に?」みたいなやりとりはなくて良いのだろうか?そんな簡単に「あ、ニートね、納得」みたいな態度で良いのだろうか!?
世の中は人を騙してやろうと考えている人間がたくさんいるのだ。そんな素直に無職を受け入れてしまうのは問題だ!私が無職であることの次くらいに問題だぞ!!
さて、明るい気持ちになるにはやはりシンデレラストーリーだろうと思った。妙齢の独身女子が突如としてこの『恋愛サクセスストーリー』に惹きつけられるのは、街灯に群がる蛾みたいなものだ。日ごろ日陰で生きている私もたまには明るさの恩恵を受けたいのだ。
ただ、この文章を書くために蛾の習性を調べていたところ、蛾が光に集まるのは特に目的があるわけでなく、地球にそそぐ光と一定の角度で飛ぶ習性があり人工的な光では光が放射状に出ることからだんだん螺旋を描きながら近づいていってしまうだけであることを知った。
野生として生きているものがそんな不確かな習性で生きてて良いのだろうか。私が蛾だったら街灯の周りをまわるだけで一生を終えそうだ。人間に生まれて良かった。
そんなこんなで借りたのが、かの有名な『プリティー・ウーマン』だった。
仕事に生きる敏腕実業家(リチャード・ギア)と街頭に立って客をとる娼婦(ジュリア・ロバーツ)の恋を描いたシンデレラストーリーだ。
ひょんなことから出会った二人は6日間の長期契約を結びホテルに滞在することになる。 実業家は娼婦をパートナーとして商談相手とのディナーに連れていくために、ディナーに相応しい外見に変身させるのだ。
そして、綺麗になった彼女との初対面のシーンで問題が生じた。
本来感動的なシーンだが、どうやら蛾には刺激が強かったようでおもむろに号泣してしまったのだ。
深夜2時に恋愛コメディを見て泣く女。ほぼ妖怪である。
ジュリア・ロバーツはあんなに綺麗だというのに、綺麗になることなく20代が終わりそうな自分の不甲斐なさが情けなく思えたのだ。しばし泣きながら見ていたが、洋画にありがちなラストシーンの味気無さに現実に引き戻され冷静になって床に就いた。
結局、翌朝起きたら普段の機嫌に戻っていた。 どうやらプリティー・ウーマンデトックスは効いたらしい。
たまにこんなことがあったりするが、自分でちゃんと持ち直せるのだ。この歳になると褒められる機会はめっきり減るため自分自身を労わる技術は非常に大切だ。
ただ、なぜあそこで泣く必要があったのか冷静に考えるとよくわからない。
蛾の行動も私の行動も大した違いは無いのかもしれない。
泣いたことが一気にバカらしく思えてきた。